先日名古屋市にてオオアリクイセミナーが開催されました。オオアリクイに特化して開かれたセミナーはおそらく日本初ではないかと思います。終始オオアリクイについてのトークが繰り広げられ、非常に濃い90分間でした。 オオアリクイ(大蟻食い)という分かりやすい名前から、存在を知っている人は多くいますが、オオアリクイが絶滅危惧種で保全や研究が急務であることはあまり知られていません。そして日本には13頭しか飼育されていないので動物園で見かけることも少ないかもしれません。しかし意外にも日本は世界で6番目にオオアリクイの頭数が多く、実はオオアリクイ大国だったりするのです。そんな隠れオオアリクイ大国の日本で、オオアリクイについてもっと知ってもらうイベントとして今回のセミナー開催に至りました。
今回のテーマは「飼育員と研究者の視点から見るオオアリクイ〜オオアリクイの気持ちを考える〜」ということで、東山動物園のオオアリクイ担当武田梓さんと一緒にそれぞれの視点から飼育下のオオアリクイについてお話しました。初めはオオアリクイの生態についてざっくり話しつつ、その後どんどん深掘りしてオオアリクイの本質に迫っていこうという流れで進めていきました。 武田さんのテーマは「オオアリクイにとっての幸せとは何か」でした。人間が感じる幸せ(おいしい食べ物, 一緒にいて楽しい仲間, 夢中になれる仕事や趣味, 健康でどこも痛くない, 自信を持てる, など)と照らし合わせながら、オオアリクイではどのようなものが幸せを感じるのかをお話されていました。動物福祉の基本となる5 Freedomsとも重なるものですね。中でもオオアリクイにとっての「自信」とは何かという話がとても印象的でした。武田さんのお話ではヒトやチンパンジーなど群で生活する動物は、相手に認められたり褒められたりするなど仲間との関係性が自信に繫がります。一方オオアリクイのような単独行動をしている動物では、他人に認められることよりも、自分のやりたいことを達成していくことが自信に繋がるとのことです。私自身オオアリクイが自信を持つということについてあまり深く考えたことがなかったのですが、オオアリクイがやりたいことや新しいことができるようになる度に精神的な成長をしていると考えると、少しオオアリクイの見方が変わりました。 私は「オオアリクイの行動から気持ちを探る」についてお話ししました。行動調査の結果から飼育下のオオアリクイの行動や行動量が野生下とどう違うかや、欲求のバロメーターである常同行動の推移から個々のオオアリクイがどのようなことを求めているのかを推定する方法を紹介しました。 その後の懇親会でセミナーではフィードバックも頂き、良く知らなかったけどオオアリクイっておもしろい、日本のアリクイ大事にしなきゃ、という嬉しいお声も頂きました。今回のセミナーに参加されたのは、動物園好きの一般の方や動物園職員の方、動物専攻の大学生でした。私自身一般の方にお話するのが初めてで、どこまで専門的な情報を砕いてお話すれば良いものか迷いながら準備をしていましたが、意外と数値やグラフに興味を持たれる方も多いことが分かりました(少しグラフとか出しすぎたかな…と反省も)。飼育員と研究者がそれぞれ違った見方で伝えると、より楽しくより深く伝わるのかなと感じました。タイアップ企画はひとまず成功したようで一安心です。 最後に、実は今年は世界アリクイ年(Tamandua Year)なのです。世界中でアリクイについて広め、保全を呼びかけています (http://anodotamandua.wix.com/campanha2018)。SNSでもTamandua Year専用のハッシュタグ (#anodotamandua) を検索すると、様々なアリクイ活動が発信されています。今回のセミナーもこのTamandua Yearプロジェクトの一環となったので、これをきっかけに他の地域でも第2弾、3弾とオオアリクイについて広める会を開催していきたいです。